12歳の王様


「全く、オヤジの奴、なに考えてんだか・・・・。」

「本当に。ユアン様をこのまま王にしてしまうなど、あまりにも恐ろしい・・。」

イトシンは額に皺を作った。

「・・・・・・俺も、こんな奴が大臣だなんてすえおそろしい・・・・。」

その隣でユアンが呟く。

「ユアン様、何かいいましたか?」

「いや・・・・。あんまし皺ばっか作ってるとすぐにジジィになるぞ、イトシン。」

イトシンはそれに対し、何もいわず、ギロッとユアンをにらんだ。


ようやく落ち着きを取り戻したユアンと、イトシンは王を探して城中を歩き回っていた。

「・・・それにしても、王は一体どこにいられるのでしょうね。」

「そうだよな。王の間にもいないし、部屋にもいないし。ったtくあの馬鹿親は。
・・・・・まさか。」

「まさか?・・・・心当たりでも?」

「・・・多分・・・・オフクロも見当たらないって事は・・・。」


☆  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



 柔らかな日差しが入る、青い屋根の教会にある小さな庭。
日の光に、周囲の木々の葉が鮮やかな緑色をきらめかせ、
緩やかに流れる風にそよそよと優しい囁きを乗せている。
その庭では白いテーブルを囲んで、楽しげに四人の男女が語り合っている。
すがすがしく、幸福な午後の一時である。

ただ、その緩やかな時を破る者がいた。

「オヤジ!やっぱりここにいたな!!!」

大きな怒り声をあげて、介入してきたのは言わずもがなユアンである。その後ろにはイトシンが
控えている。
午後の一刻のティータイムを楽しんでいた4人の男女がユアン達を一斉に見た。

「ああ、ユアンにイトシン君。よく来たね。おまえ達もお茶するかい?」

その中の青年が、優しげにユアンに声を掛けた。
薄い金色の髪に、暗緑色の瞳。ユアンによく似たこの青年こそ、ユアンの父であり、イシンシア国
の王である、マーロウ・システ・イルドである。

「いいよね、ラヴァル?ケーキ、まだあるかな?」

マーロウは彼の正面に座っていた藍色の髪を持つ男に声を掛ける。ラヴァルはこの場所の
管理人でもある。

「ああ、もちろんいいとも。ケーキもまだたくさんある。」

「よかったじゃない、ユアン。それにしても、カルアーク、私達がここにいること話しちゃったの?」

「いえ。そこまでは話していませんが。」

宰相に非難の声をあげた、赤い癖毛の気の強そうな女性は、ユアンの母であり、イシンシア
国王后ステラ・システ・イルドである。


「人の話をきけよ!!」

自分達を無視して進む話にユアンが声を荒げる。

「ったく、『茶する?』・・・・じゃないだろ!まったく!どういうことだよ、王位を譲るってのはぁ!」

「あ、そのまんまだよ。」

息子の問いに、柔らかくマーロウは答えた。

「は?」

和やかに、それもなんでもないかのように答えられた事にユアンは毒気を抜かれる。

「王様、一体どういうことなんですか?ユアン様を国王にし、私を大臣にするなどとは。
大臣、といっても既に父が宰相をやっているではありませんか。」

毒気を抜かれたユアンに変わって、ついに黙っていたイトシンが口を出した。

「ああ、それなんだけどね。」

「私達、ちょっと旅行にでようと思うのよ。できれば世界一周旅行を。」

今度は仲良く国王夫婦がその問いに答えた。

「「はぁ!?」」

二人の少年の声が重なった。

「ほら、私達結婚してから新婚旅行ってのも、ちゃんとしなかったしねー。
 何かここでラヴァルに色んな国のこと聞いてたら、いきたくなっちゃって。ね、マーロウ?」

「そうなんだよねぇ。でも、さすがに王様が長いこと国をあけるわけにも行かないしねぇ。
ちなみに、せっかく色んな国をみて歩くんだから、今後のイシンシアの為にも今回の旅には
やはり知恵袋のカルアークも一緒にきてほしいし・・・・。」

「それで、俺達に代わりをやらせよっての・・・・?」

ユアンが疲れたような声を出した。隣ではイトシンが頭を抱えている。
二人の少年も、この大人たちにかかっては形無しである。

「でも、本当に王位を譲るつもりだよ。まあ、イトシン君に関しては君の宰相の父上の代わり
として、『大臣』の称号を与えさせて貰うんだけどね。ただ、僕達が帰ってきて、国があんまり
にも酷い状態だったら考えなおさせて貰うけどね。」

マーロウはいつものように柔和な顔をにっこりさせた。

「父上、・・・・母上はどうなさるのですか?」

不意にイトシンが宰相を見た。

「たまには外に連れ出してやりたいと思うんだが、どうかな、イトシン。」

カルアークは少し照れたようにイトシンを見た。

「それは良かった。」

イトシンは微笑み、ほっと胸を撫で下ろした。

「父上がいなくなってしまったら、母上は至極悲しむことでしょう。僕は大丈夫です。
その代わり、無理はしないでくださいね。僕を悲しませるようなことはお断りです。」

宰相はすっと、席を立ち、息子の所へ行った。そして、その短い黒髪に大きな手をのせてくしゃり、
とやった。

「ユアン様を頼むぞ。そして、この国を。」

「はい。」

「・・・・くそ、イトシンまでもが落ちたか・・・。」

親子の感動的光景を目にしながら、ユアンは頭を抱えた。

「やあ、いい息子をもったねぇ、カルアークは。うんうん。」

マーロウが間の抜けた声を出す。

「ほんと、親思いの良い子よねぇ〜。」

ステラはジトーと、ユアンを見る。

「ってゆーか!ともかくオヤジとオフクロのわがままが原因だろ!。」

もう半分やけくそになりながら、ユアンがため息をもらした。

「よしよし、いいかい、ユアン。困ったことがあったら、ラヴァルやおばーさま、城のみんなに
頼っていいんだからね。」

マーロウはユアンのところへやってくると、頭を撫でた。

「大人扱いしてるのか、子ども扱いしてるのか・・・・。」

まだまだ幼い少年は、深いため息を漏らした。





そしてそれから三日後、少年は歴代最年少の王となった。

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