魔女マギー。

 


 イシンシアの魔女、マギーは雲間の城に昔から住んでいる。 
それがいつからなのかは誰も知らない。

ただわかるのは、その魔女が皆に好かれているということ。それと・・・・。


「やっほーっ!!ばーちゃんっ!!遊びにきたよ〜ッ!!」

突然、豪華で洗練された城の中を無粋な声が響いた。
そして、その声の主は許しをもえず、どんどんと屋敷の中へと入ってきた。

 こんなことを平気で行うのは、ある人物しかいない。

薄い黄色の髪、深い緑色の瞳。そしてその身にあまっている高貴そうな衣装。
それはまだ幼いこの国の国王。

「おお、ユアンじゃないか。よくきたねぇ」

そんな無礼な訪問にも平然として屋敷の奥から現れたのは、
素晴らしい衣装で身を固めた貴婦人。
歳はそれなりにとっているようだが、実際の年齢は不明。
これこそ、魔女マギー。
そして、この国の若き王ユアンの祖母である。

「お、お邪魔します、マギー様」

玄関先で少年大臣のイトシンが緊張した面で立っている。

「おや、イトシン。何を硬くなっているんだい。・・・・と、おや。」

イトシンの隣でちょこんと立っていたのは桃色の髪をした少女。薔薇の精、ローズである。

 「こ、こんにちわ〜・・・。」

「おや、あんたが例の薔薇の精霊だね。ユアンが叩き起こしたって言う(笑)。
ようこそ、我がマギーの城へ。
さあ、中にお入り。どれどれ、とっておきのお菓子を出してあげようか。」



「ねぇ、ばーちゃん、この部屋なんか甘い香りがするねぇ。
お菓子の匂いじゃなくてさ。」

マギーの豪華な部屋の中。お菓子を食べながらユアンが鼻をひくひくさせた。

「そういえば、そうですね・・・。」

「いい匂い・・・」

イトシンとローズも鼻をひくひくとさせる。

マギーは子供達の可愛らしい行動に苦笑しながら答えた。

「ちょっとほれ薬を頼まれてね。作ったんだよ。」

「ほれ薬ぃ???」

「げ、げふっげふっ」

ユアンが目を丸くしてマギーを見、イトシンは飲んでいたお茶でむせかえる。

「きったねぇなぁ、イトシン!大ジョブかぁ〜?」

「ちょ、ちょっと、イトシン大丈夫?」

「だ、大丈夫です・・・す、すいません・・。」

イトシンは少しばかり目に涙を溜めながら、口元をハンカチで抑える。

「すまないねぇ、突然変な話をしちゃったからねぇ。でも、ほれ薬っていっても偽物さ。」

「偽物?なんでそんなものを作るのさ〜。ばーちゃんだったらほれ薬の一つや二つ・・。」

ユアンがにやにやしながら祖母を見上げる。

「人の心をそんなもので弄ぶってのはタブーなんだよ。ユアン。
人の気持ちを掴むのには、それに対する人の気持ちが必要なのさ。
そして時には人の『言葉』がね。」

ユアンはそれを聞いて微笑した。
もう二人は、『どういうこと?』といった表情でマギーを見ている。

「じゃあ、分かりやすいように具体例をあげてやろうかね。
・・・・昔ね、こんなことがあったんだよ。」




ある所に赤い髪の少女がいました。
その少女はある日、その国に訪れた旅人に一目ぼれしてしましました。
まあ、もともといい男好きの少女だったのですが、ちょっとばかりその時は
真剣だったようでした。

しかし、その旅人は特に少女にはそういった感情抜きで接していました。
多分、妹のようにでも思っていたのでしょう。

なかなか振り向いてくれない彼に、赤い髪の少女はある日、ある行動にでました。
なんと、ほれ薬を作ってしまったのです。
もともと彼女は魔女の子でもあり、そういった書物も周囲にあったものですから、
それを作るのはそれほど大変なことでもなかったようでした。

少女は上手く旅人を誘導し、それを飲ます事に成功しました。
そして、彼女の計画どうり、旅人は彼女のとりこになりました。

旅人はすっかり彼女のいいなりになりました。
初めは嬉しくてたまらなかった少女も、次第にそれが嫌になってきました。
既に旅人は彼女のいいなりの機械のようになってしまったからです。

少女はだんだんと後ろめたくなってきて、魔女である母に頼みました。
彼に施した呪いを解いて欲しい、と。
魔女にとってそれは他愛の無いことでした。
また、そんな彼女の頼みを嬉しく思っていた魔女は早速旅人の呪いを解きました。

旅人は我に返りました。
少女は旅人に自分のした事を話し、謝罪しました。
旅人はそれを聞くと酷く悲しそうな表情をし、彼女のもとを去っていきました。

少女は失恋の痛手と自分のした事の後悔から部屋にふさぎこんでしまいました。
こればっかりは魔女である母もどうしようもなく、ただ見守ることが精一杯でした。

そんなある日、魔女の城を二人の少年が訪れました。
薄い黄色い髪をした綺麗な少年と、黒い短い髪をし凛とした面をした少年。
それは、その国の王子とそのお供の者でした。
仕事に忙しい父王の代わりに、魔女のところに挨拶にやってきたのでした。
魔女は王子に相談してみました。彼女の娘が早く元気になる方法はないか、と。
王子は一通りの話を聞くと、優しそうに微笑んで言いました。
自分の間違いに気づき、真実を告白した少女を尊敬する、と。

少年は少女の部屋の前までやってくると、ドア越しに挨拶をしました。
しかし、少女は取り合おうともしません。
ちょっと困ったように少年は微笑み、こう告げました。

「辛い時、一人で居たいときもあると思う。でも、少しでも気がまぎれて寂しくなったら出ておいでよ。
一緒に遊ぼう。」

すると、か細い声で声が聞こえてきました。

「でも、もうあの人は戻ってこないわ・・。」

「そんなの分からないよ。戻ってくるかも知れないよ。」

「分からないのに一人で待てるわけないわ。」

「じゃあ、僕が一緒に待ってあげる。一人で待つよりかはつまらなくないと思うよ。
出ておいでよ、少し話しをしようよ。」

暫くして、少女の部屋の扉が開きました。
ずっと泣いていたようで、その目は少しはれぼったいようです。
しかし、王子の顔を見るとぱっと顔を赤らめてその顔を隠しました。

「ほんとに一緒に待っていてくれるの?」

「うん。」

「待ちすぎて年取っちゃうかもよ。」

「うん。」

「その時は責任持ってもらうわよ。」

「うん・・・・?」

どうやら王子は知らないうちに『言葉』で相手の心を掴んでしまったようでした。



ローズ:「ふうん・・・。そうか〜。人の気持ちは、人の気持ちで動かすものなのね〜。」

マギー:「そう。その『薬』が一番効果があるのさ。だからね、今回作った偽の『ほれ薬』は、
依頼者が自信を持てるように作ったんだよ。好きな人に飲ませた後、
相手の目を見て、自分の気持ちを正直に伝えなさいって言ってある。
まあ、勿論・・・失敗も覚悟しなくちゃいけないけどね。」

ローズ:「ふうん・・。マギーさんってただの魔術師じゃないんだ〜。でも、精霊の気持ちってのは
やっぱり人のものとは違うのかな?」

マギー:「そうだね、多分一緒なんじゃないのかね。それはローズ、あんたが一番分かるんじゃないかね。」

ローズ:「・・・・。」

マギー:「そういえば、ローズ。あんたの『待っているもの』は以外と近くにあるのかもしれないよ。」

ローズ:「え・・・?」



イトシン:「それにしても、その二人の会話、最近何処かで聞いたような・・・・・。」 

ユアン:「・・・・・っつーか、それよりも、なんかその登場人物・・
誰かと誰かに似ているような・・・・(汗)。」




<了>

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