青い屋根の教会で。




イシンシア国の城下町の赤と黄土色の家々が並んでいる中、
ぽっこりと その青と白色で囲まれた背高な建物は建っています。   

人々はその建物を<<教会>>として大切にしていました。
そして、何時ともなく 皆はその場所へと赴き、祈りを捧げるのです。


イシンシアの人々が祈りを捧げるものとは・・・・


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「よう!ラヴァル! 茶ァー呑みに来たぞーーー!!
10時のおやつの時間だぞーーー!!」


ばたーんと 大きな入り口のドアが大きく開き、 外の白い陽光とともに、
一人の少年を招き入れた。


ステンドグラスの淡い光に囲まれた薄暗い内部が、
どこか楽しそうに光と少年の声を拡散させる。
 

奥の祭壇のところに佇んでいた 青年も その光にまぶしそうに目を細めて微笑んだ。
少年の声とは正反対な 深く落ち着いた心地よい声が室内に響く。

「やぁ、いらっしゃい、王様。」


続くように、キュィ、と その青年の肩の上で 一匹の鷹が綺麗な挨拶をした。

 
ユアンは 挨拶に むふん と 満足そうに微笑むと、ズカズカと中に入って行った。


「教会管理人、ラヴァル。中が暗いよ。今日は祭壇の窓開けないてないのか?
そろそろ皆が来始める時間じゃないか? 」


「窓枠に 埃が溜まっていたから 拭き取っていたんだよ。
所謂(いわゆる)一つの お掃除だね。」


今ラヴァルが立っている、祭壇と思われる場所には 像などはなく、
 雨戸に閉ざされた大きな窓がたった一つ、佇んでいた。


ユアンは 「あぁ、掃除か・・」 と 自分では使い慣れないその言葉を、
いいにくそうに発音した。


不意に 入り口のほうで大きく ドアの軋む音がし、外の陽光が室内から消えた。

ユアンとラヴァルが 入り口のほうに視線を向ける。



「ちょっとユアン!開けたら閉める! 無作法にもほどがあるわよ!?」

甲高い女の子の声が室内にこだました。


「うるさいナァ〜ローズは〜。
暗かったから明るくしてやったんだってば。」


薄黄色の髪をガシガシと片手で掻きながら、ユアンが口を尖らせる。


「まーた そうやって都合よいように弁解するんだから。
ラヴァルも 大人なんだから、 ユアンにちゃんとそういう事は
言わなきゃ駄目なのよ!」


ユアンの後から入ってきた少女は 彼にも負けない力強い足取りで
ずんずんと中に入ってきて ユアンの隣に立った。


薄く蒼い中、彼女本来の桃色の髪がラベンダーの花のような色になっている。
それはそれで 別の美しさをかもし出していた。


「まぁまあ、ローズ。あまりそんな怒った顔をしていたら、
その綺麗な顔に皺が残ってしまうよ。」


若い管理人がそう言って微笑むと、ローズはさっと顔を赤らめて、
 額の皺を両手で隠した。そして隣で佇む若い王を横目でにらんだ。


「ユアンがいけないんだから。皺皺になったらユアンのせいなんだからね。」


「ふん、責任とればいいんだろー。」


「せ・・責任って何よ・・」


「アイロンで伸ばしてやるよ。」


「ちょっと?!(怒)」


「さぁさぁ、二人とも来客室へ行ってお茶をしよう。
ここでは静かにしないといけないからね。
・・・・・・・・さあ窓を開けよう。少し祈っていくかい?」



ラヴァルがガタンと 窓の雨戸を開けた。
光がまた室内に降り注ぐ。
そしてそれらは窓近くの三人にも降りかかってきた。


3人はまぶしそうにその窓の奥を見つめた。





深く青く高い空と 草草がまぶしく光る一つの丘が
その窓から 光とともに現れた。

そして丘の上には 美しい緑の葉に囲まれた大きな樹が一つ。
それは、この国で一番に大切にされている樹。




「<<約束の樹>>・・・ここから本当によく見えるわね。」

「だから この場所にこの教会ができたんだよ。」

静かな 少女の問いに 穏やかに 藍色の髪の青年が答える。

「皆、<<約束の樹>>に祈るのよね?」

「いいや。<<約束の樹>>はイシンシア王国の象徴としてあるんだ。
我々が祈りを捧げるのは あの空や大地や風や・・全ての現象に、だよ。
だから ここでは <窓> なんだ。

そして 祈る内容は個人の自由。」


「何でもよいの?」


「なんでもね。ただ祈る時に忘れてはいけないことは、
<全て我々は、いま在るあの全ての現象によって、存在している>

・・・・この事だよ。ありとあらゆるものが、ありとあらゆるものによって
存在している。このことを忘れちゃ駄目だよ。」






一人、ユアンが両手を組み合わせ 静かに目を閉じていた。
その光景を二人は静かに見守った。

ふいに そっと少年が瞼をひらく。その緑色の瞳に空の青さが反射する。

そっと 壊れ物をさわるように、精霊の少女は 少年王に声を掛ける。


「・・・・ユアンはいつも何を祈るの?」


「うん、王様だからな。皆が幸せで居られる事。
  
 あ、でも今日は・・・・」


 今日はもう一つ 、 と ユアンがにんまりと笑った。



「あと、ローズの眉間の皺がなくなるようにって。」





― さぁ、お茶の時間にしよう。―

-了-

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