ユアンは喜び 城駆け回る?

さてさて、とうとうイシンシアにも雪が降り始めました。冬の空の優しい青い光に、雪が白く輝いています。
 この時ばかりは、街はおろか、いつも藍色の山も白い山へとその姿を変えています。
 

朝のイシンシア王城。不意に廊下をバタバタと走る音が辺りに響く。

?:「雪だ〜っ!!!雪、雪ぃ〜!!!」

?:「待ってくださいっ!パジャマで城の中を走るのはやめてくださいっ!!(怒)!」

走る足音に続き、甲高い二人の少年の声が広い廊下にこだまする。
朝っぱらからにもかかわらず、追いかけっこをしているこの少年達は、勿論・・・・

不意に先行く薄黄の髪の少年が走るのをやめ、振り返り、腕を組んで追手を見据える。

ユアン:「うっさいなぁ〜、イトシンはっ!人がせっかく感動しているのにぃ!」

後から来た少年大臣イトシンは、呼吸を整えながら負けずに反論する。
その言葉と共に吐かれる息は白い。

イトシン:「ぜいぜい・・・・感動するのはいいですが、せめて城の中を移動する時ぐらいは         
きちんとした恰好をして下さい、ユアン様!仮にも貴方はこの国の『王』なのですよ!? 

ユアン:「お前だって、パジャマのまんまじゃん〜。それに髪たってんぞ。
仮にもお前はこの国の『大臣』なんだぞ〜。
王様を追いかける時ぐらいちゃんとした恰好しろよなぁ〜。」

ユアンの意地悪そうな言葉に、イトシンは顔を赤くして両手で髪を抑える。

イトシン:「し、仕方ないじゃないでか、それもこれもユアン様が・・。」

バッターン!

?:「うっさいわね〜っ!!朝っぱらから、人の部屋の前で騒がないでよねっ!!」

イトシンが言い終わる前に、不意に二人の近くの扉が勢いよく開かれた。
そして、その中から甲高い声と共に、一人の少女が現れた。
ピンクの髪に寝癖とつけながら、座った目で二人に眼を飛ばすこの少女は、
この城の居候にて薔薇の精霊のローズである。

ユアン:「よう、丁度いい。お前の目も覚ませてやるよっ!」

そういうと、ユアンはローズの手をとって、再び廊下を走り始めた。

ローズ:「ちょ、ちょっと!何なのよぅ!!(怒)。」

イトシン:「あっ!こら、ユアン様っ!!(怒)」



中庭は、雪のために一面真っ白である。
そこまで来ると、ユアンはローズを道連れにその銀面へと頭から倒れ込んだ。

ユアン:「うっひょ〜っ!!つめてぇ〜。」

ローズ:「ばふっ・・・ユアンっ・・・(怒)。」

ローズが額に怒りマークを浮かばせながら雪に埋もれた顔を上げる。
一方、ユアンはゴロン、ゴロンとその上を転がり戯れている。

ユアン:「気にすんなーって。」

ローズ:「何が気にするな、なのよっ!!おっそろしく寒いわよっ(怒)!」

ローズは雪にまみれた髪をかきあげ、上半身を起こし転がっているユアンをにらむ。
そこにイトシンの声が聞こえてきた。

イトシン:「何をやってられるんですか〜ッ(怒)。」

後からやってきたイトシンは、いつもの如く額に怒りマークをつけ、幾分呆れた顔でユアンを見下ろした。
寒いらしく、体を縮ませながら二人に近づこうとした刹那・・・。

ユアン:「よっしゃ〜!道連れだっ!」

イトシン:「!!??」

突然、ユアンが掛け声とともにイトシンを雪の中へとタックルする。

イトシン:「な・・・な、何をするんですかぁっ!?(怒)!!」

ユアン:「だから、道連れだっていってんじゃん(^^)。」

ユアンはイトシンの横で上半身を起こし、ふくふくと笑った。

イトシン:「・・・ユアン様〜。」

イトシンがユアンを恨みがましく見上げたそのとき、近くの窓から笑い声が聞こえてきた。
男女二人の柔らかい笑い声。

ステラ:「ふふふっ、おはよう。皆んな元気でいいわねぇ〜。」

マーロウ:「やあ、おはよう。寒くはないかい?ホットミルクを用意してあるから入っておいで。」

ユアン:「お、おやじにおふくろじゃん。おっはよー。ホットミルク?サンキュー☆」

二人の男女は第七代国王のマーロウとその后ステラ。
つまりは現在の国王のパパとママにあたる。

ローズ:「マーロウ様、ステラ様、おはようございます。」

ローズはさっきと態度を豹変させ、優雅に挨拶をする。
ただ、頭に雪を残しながら『優雅』というのは少し違うかもしれないが。

イトシン:「おはようございます・・・・って・・マーロウ様もステラ様も・・・
パジャマはやめましょうよ・・・(泣)。」


<<了>>


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