星祭り
辺りはもう闇のカーテンがひかれている。ただし、月明かりが明るく道を照らしてくれている。
そのなか、イシンシア国王ユアンは、不恰好なカンテラを片手にてくてくと前を進んでゆく。
ふいに、旅人である私の方---こちらを向いて、少し不機嫌そうな顔をする。
ユアン:「遅いぞ〜。ただでさえ、遅れてるんだから〜。
そろそろやばいんだよ〜。」
ユアン:「ぬう?『星祭りってなんだ』って?しょうがないなぁ〜。ま、旅人だからしょうがないっか。
・・・じゃ、教えてやるけどさ。・・・いいか?『星祭り』ってのは〜、
一年に一度、流星群が訪れるその日に、行われるお祭りなんだ。
『約束の丘』の大樹を中心に、色々な催しものが開かれ、
俺達はうまいもの食ったり、歌ったり、踊ったりして楽しむんだ。」
ユアン:「なぬ?他の祭りとどこが違うのかって?・・・ふふふ。よくぞ聞いてくれたな!
『星祭り』ってのは、『寿命を終えた星への祈りと、新しい星の誕生』の儀式でもあるんだ。
不意に、なだらかな丘の上で、ちらほらと明るい光が見えてきた。
あれが祭り場所? と聞こうとしてもユアンの話はとぎれることがないのでやめる。
ユアン:「・・星は寿命が来ると、流星となって、空から落ちるんだ。俺達はその星達の為に
「お疲れ様」という意味で、お祭りを開くんだ。・・・・そして、星が流れた後・・・。」
?:「作ったカンテラを空に捧げると、その炎が新しい星となるんです。」
ユアンの言葉を誰かが背後から継いだ。
びっくりして振り向くと、ひょろりとして、眼鏡をかけた白衣の男性が、立っていた。
ユアンと同様、その手にカンテラを提げている。
ユアン:「なんだ、コール。お前もこれからなわけ?もう祭りも終盤だってーのに。
天文台の所長が星祭りに遅れるなんて、全く俺じゃあるまいし。」
コール:「ええ。星の流れを確認するのに手惑いまして。貴方はカンテラ作りで遅くなったのですね?
お疲れ様です。随分お時間がかかったようですけど、よく頑張りましたね。
貴方のいいところは、何でもあきらめず、頑張れるところですね。」
そういうと、天文台の所長はにっこりと笑った。
ユアンは面白くなさそうにそっぽを向いてみたが、どうやら照れ隠しのようだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ユアン:「おお〜っ、今年も楽しそうだな。」
コール:「そうですね。」
辺りをキョロキョロ見渡すと、大きな一本の針葉樹を中心に、色々なお店が出ている。
不意に、向こうの群集の中から、黒髪の少年が血相を変えてやってきた。
額に浮かぶ怒りマークが似合うこの少年は、いわずもがな、イシンシア大臣イトシン。
イトシン:「ユアン様〜っ!!一体いままでどちらに行かれていたのです!?。」
ユアン:「ん、・・んま〜。色々とね。おお、みんなもう揃っているようだな☆」
イトシン:「そりゃそうですよ。もうすぐ星が流れる時間ですからね。」
でも、ちゃんとカンテラは作られたようですね。
・・・・ってまさか、今の今まで作られていたんですか?」
ユアン:「・・・・これがなけりゃ、新しい星が誕生しないだろ?」
ふてくされながらそっぽを見るユアンを、イトシンとコールは顔を合わせて微笑む。
ユアン:「そうだ、ラヴァルとカラートの演奏ってもう終わっちゃったの?
ヴァイオリンとフルートだっけ?
この間、二人で練習していたのを見たけど。」
?:「もうとっくよ。素敵だったわよ〜。楽しいわね。星祭って。
私、初めてだから、よくわかんないけどね。
・・でも、まったくユアンってば、勿体ない事したわね。」
少し意地悪げな言葉とともに、桃色の髪の少女が現れた。
ユアン:「ちぇっ。ローズか。いいさ、後で聴かして貰うから。
こうなったら後は食べものだっ!」
ローズ:「ユアンは踊らないの?楽しいわよ。・・・ま、どーしてもっていうんなら、
・・・まあ相手してあげてもいいけど。」
ローズが上目使いにユアンを見る。
ユアン:「・・・・旅人、なんか食いたいものある?そうだ、俺のばーちゃんが
料理をだすとかいってたっけ。」
ローズ:「(怒)!」
ユアン:「いてっっ!ローズっ、足踏むなよっ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
どのくらいたっただろうか。
不意に丸い月が雲の中に隠れ、辺りの明るさが半減した。
コール:「もうすぐです。」
その声が合図のように、辺りを照らし続けていたライトが消え、闇に人々のもつ、
無数のカンテラの光だけが漂う。
周囲は今までの賑やかさがうそのように消えうせ、静寂が残る。
皆、天を仰ぐ。
ユアンも手にしていた食べ物を口に押し込み、空を見上げる。
コール:「きましたよ。」
その声に促され、夜空を見上げると、蒼白い美しい光が幾筋も流れ落ちる姿が目に入った。
どことなく物悲しいが、その光たちは至極美しく燃え落ちていく。
最後に精一杯光り輝いて。
沢山の光が落ちてゆく。
その先には一体なにがあるのだろうか。
ユアン:「あの星たちは、俺達のように魂の糸として紡がれ、新しい命の一端になるんだ。」
私に言ったのか、それとも他の誰かに言ったのか。
ユアンの囁きが耳に入った。
一体どのくらいの時が流れたのであろう・・・流星群が途切れる。
コール:「さぁ、これから新しい星が誕生しますよ。」
皆、手に持つカンテラをそっと、掲げる。
ユアンも、その不恰好だが丁寧に作られたカンテラを持ち上げる。
周囲に溶け込めないローズがキョロキョロと辺りを見回す。
ユアン:「ローズ。カンテラを掲げるんだよ。」
ローズ:「星が誕生するの?」
ユアン:「そう。」
暫くすると、周囲のカンテラが強い光を放ち出した。
ユアン:「星が生まれる。」
ユアンとローズのカンテラも強く光を放ち出した。
そして、中から火の代わりに、美しい光がゆっくりと顔をだした。
そして、ゆっくりと天へ上昇していく。
ユアン:「星が無事に天に届くのを見守りながら、願いをかけるんだよ。」
いつもとは違う、静かで優しい口調でユアンがローズに声をかける
ローズ:「・・・願いが叶うの?」
ユアン:「っていわれてる。」
ローズ:「ふうん。ユアンは何を願うの?」
ゆっくりと上昇する『星』を見上げながら、ローズが聞いた。
ユアン:「・・・叶うか叶わないかなんてわかんないから、とりあえず。
・・・・皆が幸せでありますように・・・。」
星祭<<了>>
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