魔女マギー の昔話


   おや、よく来たね。旅する者。  どうだい、イシンシアの国は。・・面白いだろ?
あたし?なんだい。 このあたし、魔女マギーの城まで来ておきながら、
「あんた誰だ?」なんて野暮な事きくのはやめとくれよ。

ところで、何の相談で来たんだい?ここまできたからにゃ、何か用だろう?
・・・・んん?ただ面白そうだからきた?
あんた、酔狂なやつだねぇ。
あはは、気に入ったよ。

所で、このイシンシアの国の王、ユアンにはもうあったかい?
・・・ふふ、あれは実はあたしの孫なんだよ。
あの子の母親があたしの娘でね。それにしてもまた変なところに嫁にいったもんだよ。
そう、王室なんてさ。

ま、相手があの一風変わった男だったからまだ面白みもあるってもんさ。
そうだよ、第7代イシンシア王のことだよ。

そういえば、ユアンも最近先王によく似てきたねぇ。
本人は『あんなぼけぼけの親とは全然違う!』とかいっていたけどねぇ。
何ね、本質が似てるんだよ、結局さ。

・・・そうだ。せっかくだから昔話をしてあげようか。
いや、なにね。ほんの少し昔の話だよ。


昔ある所に魔女がいた。
大きな屋敷で長い時を彼女は一人、住んでいた
気が遠くなるほどの時間を。
しかし、寂しくはなかった。
いつも、誰かが彼女の助力を求めにやってきていたから。

しかし、その屋敷にいつしか一人加わる事になる。


魔女はその日の朝、いつものように近くの新緑の森に薬草を取りにきていた。
草にかかった朝露に、ゆったりとした衣服のすそを濡らしながら
魔女は森の奥へと進んでいった。

「?」

青い朝靄を伴い、より神秘的な風合いを持つ森の奥から、
不意に、この場所に不似合いな音が聴こえてきた。

(音、ではないわね・・・。これは、赤ん坊の泣き声?)

魔女はその泣き声の方へとゆっくりと進んでいった。
たどり着いたのは、森の奥にある小さな神殿。
この国の中でも僅かな者しか知らない、そして誰も住んでいない、
白亜色のそれはそれは小さな神殿。
それは辺りの青い大気に少しばかり染まっていた。

泣き声の主はその入り口にいた。薄汚れているが、暖かそうな毛布に包まって。
魔女は、微笑むかわりに、表情を曇らせた。
なぜならば、そこにいたのは赤ん坊だけではなかったからだ。
どこかの兵士らしき男が一人、
赤ん坊を守るようにして神殿の敷石の上で横たわっていた。
血に汚れた衣服を纏うその男は既に息はなかった。

この国には兵士などいない。
ましてやこんな陰惨な事など起きるはずがない。
魔女は悟った。

(これは異国の地の者・・・)

魔女は倒れた兵士を土に還し、赤ん坊をそっと腕に抱いた。
玉子ではなく、人間の体から生まれしその赤ん坊を。

そしてその赤ん坊はその魔女の元で育てられた。
幸せに満ちたこの国で。


・・・・何?起承転結が分からないって?いいんだよ、それで。

その赤ん坊はどうなったのかって?

ああ、今じゃ一児の母さ。そう、赤い髪の気の強い女だよ。

・・・・・おや、どうやら孫がきたようだねぇ。
その 『赤ん坊』の子がね・・・。

さて、迎えにいってやるかね。
この閉ざされた国と異国の魂を継ぐ子を。

<了>

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